夏休みの読書

夏休みは、目的のない読書を楽しむ期間にしているのだけど、ただこの時期は戦争の児童文学を手に取るようにしている。
特に今年は、積極的に読みたい。
そんな気持ちになっている。

私の好きな竹崎有斐の「にげだした兵隊 原一平の戦争」(岩崎書店

題名から、主人公の原一平が脱走兵の話なのかと想像していたが、違った。

昭和18年末に入隊し、国内の飛行兵として勤務。のちに終戦を朝鮮で迎え、2か月後に釜山から復員船で日本に帰れることになる。
それまでの2年間の軍隊生活を描いたのがこの物語である。

竹崎さんの自伝的なものもあるのかわからないが、私は今まで親しんだ竹崎作品の登場人物たちが戦争にまきこまれたらこうなるのか、とつい思ってしまった。
生きるセンスのようなものが一平にはあり、もちろん運もあるのかもしれないが、とっさの判断力と人間性が関係しているように思える。

でも、そんな一平でもやはり苦しむことになっていく。
運がよくいろんなことをくぐりぬけてきたはずなのに、それで心が晴れ晴れすることはない。その時々で一瞬ひるんだ自分やごまかしてしまった自分を、何度も思い出す。
どんな人も無関係でいられない。誰もを巻き込んでゆく。それが戦争なのだと、思った。

ここにも犬が出てくる。

復員船に乗せてもらえず犬だけ置いていったはずが、つなを切ってきたのか奇跡的に同乗出来た場面がある。

犬の物語をたくさん書いてきた竹崎さんだけに、この場面がせつなくあたたかく感じた。

重い事実の積み重ねの話のはずなのに、一平のおおらかなどこか抜けた感じが笑いをさそう。それが竹崎さんの作品の魅力そのものなのだと、あらためて思った。


最後まで読み終わると、題名が重くのしかかる。


軍隊で一度もなぐられずに済んだ一平が、はげしく顔をなぐられる。

竹崎さんの感情を抑えた、かみしめるようなあとがきとともに、逃走したひとりの兵隊と、特攻隊で出撃出来なかった兵長、そして一平。

それぞれの心の内を思い、いろいろと思う。


1983年出版。