8月に読む

昨年買っていながら読めていなかったのを、1年遅れでようやく手に取った。
角野栄子の「トンネルの森 1945」(角川書店)。

私や、私とかかわる子どもたちにとって親しい存在である「リンゴちゃん」の作者だ。もちろん世の中的には、「魔女の宅急便」の作者として認知されているのだが、私にとっては断然「リンゴちゃん」なのである。

この本は、終戦の直前の約1年間近く、知人を頼って疎開した少女から見た戦争を描いている。
東京の深川で、骨董屋をしている父セイゾウさん。母は5歳の時に亡くなったが、新しいお嫁さんがやってきて弟が生まれる。
おばあちゃんは、本郷で仕立物をして暮らしている。母のない少女は、センスのあるおばあちゃんと優しくて面白い父に育てられたのだが、戦局が激しくなり疎開をせざるを得なくなったあたりから、時代の波にまきこまれていく。


一貫して主人公イコの視点で描かれているので、東京からの疎開児の戸惑いやいなかへ溶け込もうとする必死さ、始終おなかをすかせていたこと。
新しいおかあさんに、好意を持ちながらもいろんな感情が邪魔をすること。
10歳の少女の心の動きがみずみずしく、自分もその場所にいるような気分になる。


イコがトンネルの森で出会う、脱走兵の幽霊。そのまじわりが、リアルなようで幻想的なようで。
その時だけ、素直になり心の奥を見せるイコがせつない。

読んでいるうちに、脱走兵は自殺したと書いてあるのに、ふと見つかってつかまってしまったらどうしようとドキドキしたり、沼に沈んでいったはずの靴があらわれた時につい錯覚してしまう。
それは、デティールがまきらわしいからではなく、自分に問いかけていろんな思いを馳せてしまう何かが、この物語にあるからだろう。


一切、それについての説明がないところが、私はかえってよいと思った。


これをきっかけに、読んだ子どもたちは当時の脱走兵の顛末についてや、東京大空襲の史実などについて学ぶきっかけになったらよい。


おばあちゃんがてぬぐいで作ったお人形は、きっといつまでもイコの中に残っていくだろうと思った。


ブックオフで100円で買った「おじいちゃんは兵隊だった」(竹野栄・著 田代三善・絵 旺文社)。
孫に戦争のことを話してくれと言われたおじいちゃんが、50年前に軍隊で経験したことを話す…。

1944年から終戦まで北海道出身の青年が、埼玉まで来て軍隊に入り、最後は特攻隊の小隊長として福岡・博多湾に待機するまでを描く。元々陸軍で配属されたのだが、途中で幹部候補生となり船舶部隊への所属になる。
陸軍なのに海上で船舶する隊があったのだと、私は初めて知った。

この方は、実際に敵と闘うまでに終戦を迎えたので、命を落とさずにすんだ。というのもあり、軍隊の生活について淡々と描いている書き方になっている。しかし、それがかえって「滅私奉公」や「絶対服従」が軍隊の本質なのだというのが伝わることにつながっている。

そして、戦後長く教師をされた作者・竹野さんの戦争をしてないけない、という強い思いが伝わる。

おじいちゃんは、最後に孫のさとるに語る。

「おじいちゃんは直接戦地で敵と戦ったわけでもなく、傷を負ったわけでもない。軍隊生活をした人々の中では一ばんめぐまれていた方だと思う。
しかし、もう二度と、絶対に行きたくないのは軍隊だ。そこへ入れば、心が人間の心でなくなってしまうからね。」


いやだ。人間の心でなくなってしまうのは、いやだ!
8月に、思う。