人の生き方から感じること

小学生の頃は伝記の本といえば、私にとっては図書室で読むものだった。
家にはそのジャンルはなかったし、野口英世ナイチンゲールも本で知った。伝記の本コーナーを順々に読んでいった覚えがある。
しかしだからといって、感動したりいまでも心に残ったエピソードがあるかというと、ほとんどない。ただ読んで制覇した達成感があったのと、まあ一般常識として子どもながらに「事を成し遂げた人」の知識を得たということかな。
ああ、ひとつだけあった。
当時総理大臣になった人が、子ども向けの自叙伝を出した時期に伝記の感想文を書く宿題があり、珍しく私はその伝記を買ってもらった。
それで授業参観の時に、その作文を読んだ思い出がある。
多分に題材の珍しさで選ばれたのもあると思う。
そしたら何年かして、彼は当時大きな社会問題となったR事件で逮捕されてしまった。
子ども心に「そんなんって…」と絶句したっけ。

その本は、たま〜に古本市で出ている。
あらあら、と思うが…手にはとらない。


大人になってからはよく読んだ。
いろんな人の生きざまを本で知ることが出来る。
伝記ジャンルは、いまは結構好きだ。
近年読んだもので思いつくのは児童書でいうと、「ケストナー ナチスに抵抗し続けた作家」(クラウス・コルドン/作 偕成社)「きれいな絵なんかなかった 子どもの日々 戦争の日々」(アニタ・ローベル/作 ポプラ社)「玉虫とんだ 世界初の模型飛行機をとばした日本人 二宮忠八物語」(菅原千夏/作 講談社)かな。若い頃に出会った林竹二の「田中正造」関係の本も大きかった。難しい本だが、ゆっくり何度も読んだし、林さんの視点はたくさんのことを私に教えてくれた。
その人物の生涯だけでなく、見つめて書く人の視線があるのが「伝記」「評伝」の魅力だと思う。

さて、「伝記パーティ」なるものが出てくる楽しい物語を紹介。
「わすれんぼライリー、大統領になる!」(クラウディア・ミルズ/作 三辺律子/訳 あすなろ書房)。

ライリーは、わすれんぼの王さま。
「ライリー、あなたは、体にくっついてなきゃ、自分の頭だってなくすでしょうね。」
大人にここまで言われてしまうのだが、自分でも自信がない。
伝記についての勉強が始まったとき、ライリーはぼんやり考える。
ぼくの伝記が出るとしたら題名は?
「ライリー・オローク伝 ノートがみつからない少年」?
いやいや、
「ライリー・オローク伝 自分の頭すらなくす男」?

こんな風に考えられるライリーは面白い、と読んでる者は思うんだけどね。
先生は、伝記を読んでレポートを書く宿題を出す。そして最後に「伝記パーティ」を開く、と。
つまり各自の読んだ伝記の主人公の格好をして、パーティに参加するということなのだ。そして、くじをひき、どの人物にするか選ぶ。
ガンジーをあてた友だちは、「え〜、あの下着だけであぐらかいてる、つるっぱげのおやじ?」と騒ぐ。
ライリーは、ルーズベルト大統領。気がのらないなあ。
そんなことよりも、目下の関心はサックスが演奏できるようになりたいことなのに…。楽器も持ってないライリーに、どうやって出来るのだろう。

伝記の学習を軸に、サックスをめぐる騒動、母子家庭であるライリーの事情、友だちとの触れ合いのなかで、少しずつ自発的に動いていけるようになるあたたかでユーモアに満ちた物語だ。

子どもたちが自由に意見を述べながら、のびのびと育っていく教育環境が背景にあり、いろいろと考えさせられる。そして、伝記の人物に自分を重ね、楽しみながらもちゃんと学んでいるところがすごいなぁと思う。

ガンジーの当日のコスプレ、笑うよ!
それ読むだけでも、この本いいと思うな…