家族のいろんなかたち

読む前は、なんの秘密の一週間なのかと全然別の想像をしていた。
こういう一週間だったのか、と一気に読んでふうっとため息が出た。

これは、満足の吐息だ。
島へのバカンスで、いろいろと思い描いていたものとは全く違うことに遭遇してしまったサミュエルだが、でもなんという豊かな一週間だったのだろう。

シングルの母に育てられ、ひょんなことから顔を見たことのない父の名前を知ることになったテスが、父に会いたいと思ってしまう。
テスが生まれたとも知らない父にだ。

子どもらしい?度肝を抜く?計画を次々と立てて、サミュエルを巻き込んでいくテス。
普通一般の家庭に育ったと自分でも思っているサミュエルだが…テスを筆頭に島でいろんな人に出会ううちに、家族についていろいろと考える。

そして、サミュエルの家だって普通?
普通ってなんだろう。
ひどい片頭痛に悩まされ、でもそれを受け入れて頭痛があるからこそない時をかみしめて生きる母。そんな母のことを本当にわかっていただろうか。
成績がふるわず、乱暴で単細胞な兄。
でも、やたら頭の出来のいいサミュエルと比較するからであって、兄は兄なのだ。兄の中に、繊細な感性がないなんて誰に言える?

島の87歳のおじいさんとのかかわりも、心に深く残る。

テスの母は彼を愛し、愛したからこそ中絶せず出産する形をとった。生んだことを悔やんではいないし、テスにもそれは伝わっているからのびのびとしているのだろう。
父ヒューホの人物造形もよい。
ヒューホの恋人もすてきだ。この人がこんな人でなかったら、すべてはうまく回らなかった。

現実には、こうはいかない事例もたくさんあるだろうし、実際にこんな境遇にある子どもや親は、こんなもんではないと言われるかもしれない。

でも、子どもの文学らしい、前を向いて生きるきらめきに満ちた物語だと思った。従来の家族の解体や多様さが著しい昨今の現状を描きながら、読後感が前向きになるのは作者の力量だ。

まだ若い作家らしい。もっと日本語訳がされてほしい。

こういった本は、どう紹介するのか。
ここに、苦心がいるんだよな…
言いすぎてもいけないし…ただ黙っておいておいても読んでほしい子のもとには届かない。
「秘密の七日間」の楽しそうな題名にひかれて、低学年や中学年が手に取る本でもない。

しかるべき子にいくように…。
目下の私のテーマでもある。

「ぼくとテスの秘密の七日間」(アンナ・ウォルツ/作 野坂悦子/訳 きたむらさとし/絵 フレーベル館)。