おはなしのおもしろさを

ゾロリがいつも奪い合いになるので、絵が多くてクイズや推理の楽しみもあって、字も大きくて男の子が読みたくなるもの…。
ゾロリもいいんだけど、大概ゾロリファンは中毒のようにそのシリーズから動かない。
ちょっと目をずらせたいな。

司書になってすぐの頃、そうした悩みに遭遇した。
それで選んだのが、三田村信行さんの「キャベたまたんてい」シリーズ(金の星社)だった。キャベツの顔したキャベたまたんていはじめ、いろんな野菜たちがみな人格化していて、宮本えつよしさんの絵が楽しい。そして、何よりもストーリーがなかなか読ませるのだ。

その後、ゆきだるまなのに寒がりやで、あったまってるうちにどんどん小さくなっていく「さむがりやのゆきだるま」や、きつねの夫婦が不思議なお客にめぐりあう「きつねのクリーニングや」も、三田村さんだったのだ…ということがわかった。
それは、娘がまだ小学生だった頃、一緒に楽しんだ本だったのだ。

こうして、私のなかに作家・三田村さんの名はインプットされていった。


それで、比較的最新作「れいかいホテルはいつもまんいん さいごのさいごのなかなおり」(三田村信行/文 いとうみき/絵 そうえん社)。
この本を2年生に、2回に分けて読んでみた。

「れいかいホテル」とは、死んだ者がまず来る霊界にある、ホテルのこと。
あの世とこの世の境目にある霊界。
ここにある裁判所で、みなえんま帳をくまなく調べられ、天国行きが地獄行きかを決定される。
世界中からやってくるたましいの数は半端でないので、裁くにも時間がかかる。そこで、滞在するホテルが必要というわけ。

話の主人公は、そのホテル群のなかでも1番人気の「きつねホテル」支配人なのである。

2年生に、その場面設定を納得させるのはちょっと補足がいる。

読みながら、「あの世ってわかる?」「えんま帳ってな…」と説明し、子どもらと対話しながら進める。

みんな、自分のえんま帳があるのかも…と思うと、ブルッとする感じ。まあ、この話はそこを深めるものではないから、あまり怖がらせてはいけない。

船長のブルドックと大学教授のコリーが、同じ時期にホテルに来て、しかも2人は犬猿の仲らしい。
幼い頃は大親友だった2人に何があったのか?
考え込むきつね支配人のところで、前半終了。

「つづきは、今度の図書の時間ね。」
前半は、場面設定を理解するのが大半だったので、ちょっと難しかったかな…と思っていた。

さて、2回目。

あれ、みんなの顔がピッと本に向いてる。

「みんな、前の話おぼえてるか。」

「はよ、読んで!」
「ブル船長と、コリー博士やろ。」
「どうなるのやろ。」

後半は、とんとんと進むストーリー。
な〜るほどね…と、みんな。

最後も、あっ、あの人が…と憎い演出。三田村さん、こういうこと楽しいんだからな。
「なあ、つづきないの?」
「これ、1冊で終わりみたいよ。」

残念そうな2年生。

なかなか面白い読み聞かせになった。

こうしたタイプの本の読み聞かせは、ひとり読みにつながることがある。幼年童話って、大事なのだ。
図書館に行って時間のある時は、書架をめぐって探すことが多い。ざっと読んで、いけるかな、どうかな、と吟味する。

これも、そんな1冊だ。

そうそう、「おとうさんがいっぱい」というのもシュールな作品。これは
三田村さんの若い頃の作品。70歳を超えて、海千山千になって引き出しが多くなりこうして書き続けるのって、奥が深いなあ。
「おとうさんがいっぱい」と「れいかいホテルはいつもまんいん さいごのさいごのなかなおり」が結びつかない人もいるかもしれないが、私はそうは思わない。
年をとるって、素敵だなという気持ちになる。