夏のおはなし

ネムリコちゃんは、1年生です。
夏休みに学校のプールに通っていました。
まだ、浮いてちょっとバタバタして何メーターか泳げるくらいです。


まだスイミングスクールというものが、普及していなかった頃のことです。


先生が横の幅は12メートルだよ、と教えてくれました。
まず、そこを泳げるようになってみよう。


ネムリコちゃんは、碁石拾いは大好きです。
水の中で目をあけることだって、出来ます。
時々、水が鼻に入るのが嫌いです。
つーんとして、涙が出てきます。


プールサイドに座っていると、水がはじけて水着も身体もだんだん乾いてきます。
うぶ毛がさらさらになってきて、日に照らされて金色に光ります。
そこでまどろむ時間が、ネムリコちゃんは好きです。



いやいや、そんなことを言っていては、泳げるようにはなりません。



みんな入りなさい、と先生が言いました。


ネムリコちゃんも、ぽちゃんと入りました。


ピー、っと笛がまりました。


足をバタバタさせてとにかく前へ、前へ。
息が苦しくなってきます。

もうちょっと。もうちょっと。

いけるかな。

しんどいな。

でも、まだいけるな。


もうだめというところで、足をつきました。


すると、真ん中を超えたところまで進んでいたのです。
これだと、もうはしっこの方が近いのです。



ネムリコちゃんのなかで、うれしい気持ちがむくむく盛り上がってきました。

もう一回、したいと思いました。




その夏の最後に、ネムリコちゃんは12メーター泳げるようになったのでした。




幼年童話、「カエル水泳きょうしつ」(岡野薫子/作 あかね書房)を紹介しようと思ったら、もう再版未定なんだね。
水泳が上手になりたい女の子が、カエルが貼った「水泳きょうしつ」のポスターを見つけて習いにいくお話。
とても、とても、いいお話です。
あまり廃棄してない学校の図書室ならあるかも。
そうか、公立図書館の閉架図書になってるかも。


前の勤務校にはあったけど、いまのところにはないのです。
時々、無性に読みたくなる一冊です。