わがまま疾走感に爽快

「のろいさん?」
幼年童話の本の題名に「呪い」が出てくるなんて、と手に取ったのがきっかけになった。
図書館の棚の前に座り込んで立ち読み。
わがまま主人公の話は他にもあるけれど、脇役が優しかったり気をもんだり大抵バランスを取る。でも、この話はりんごちゃん(人形)とマイちゃん(人間)が拮抗していて、ライバル意識まるだしで自分を出し切っているのが特徴だ。だから展開が読めない。
話は、角野栄子。幼年童話も書ける人なんだな。
そして、絵がいい。
ぷーっとふくれるりんごちゃんの魅力的なこと。「パンダのポンポン」の長崎訓子だとわかり、なるほどと納得。

これはいいなと思い、さっそく1〜3年生に読んでみた。

りんごちゃんはりんごの顔したお人形。いつも自分が一番になりたいと思っている。
マイちゃんの友だちケイくんが遊びに来て、お絵かきをしていても自分に関心を引き寄せようと邪魔をする。ブタの人形チャンピオンくんにもちょっかいを出す。
でも、みんな自分のしていることに没頭してりんごちゃんの相手をしてくれない。
怒ったりんごちゃんは、紙に自分で考えた「のろいさん」の絵を描く。
角や目がぎらぎら光ったのろいさん。のろい山からやってきて、みんなを石に変えちゃって!
りんごちゃんはのろいさんの絵を顔にはりつけ、叫ぶ。

子どもたちは、みるみる物語の世界に入ってきた。
「赤い顔してへんなやつ。」
わがままぶりを非難する気持ちが高まり、りんごちゃんの容姿を罵倒する子。
ふくれるりんごちゃんがおかしくて、面白そうに笑う子。
3年生は3年生らしく、つぶやいている子がいた。
「ほんとに石になっちゃったら、りんごちゃんが後悔するだけやから。りんごちゃんは、ばかなことしない方がいい。」


すると、マイちゃん・ケイくん、チャンピオンくんがピタッと動かなくなった。
だんだん不安になったりんごちゃんは、こちょこちょしたりどなったりして、なんとか3人を動かそうとするが、みんな石のようになって直立不動なのだ。
「もしかして石になっちゃったの?」
うんともすんとも言わない3人を前に、りんごちゃんは泣きだしてのろいさんの絵を顔から外す。
「もうおしまい!のろいさんは、お山に帰っちゃったよ!」

すると…「わ〜い!りんごちゃんがだまされた。」

「みんな、意味わかった?」と私。
「うん、うん!」とうれしそうな子どもたち。
「だまされた!」
「石のふりしてた!」

そうそう。やるなあ、マイちゃんたち。いつもは大人しいチャンピオンくんまで「くくく…」と笑っている。
このチャンピオンくんの描写が、私は大好き。角野さんの力量を感じる。
いたずらは、チャンピオンくんまでも巻き込まない成功しない。いつもは、優しく大人しいチャンピオンくんが、結構意地悪く加担していることに、私は子どもの世界をリアルに感じていいなと思う。
だから、チャンピオンくんが笑うところを、やや感情移入して読んでしまったかもしれない。

さあて、ものすごくふくれるりんごちゃん。

すると「とんとん、とん…」
ドアをノックする音が。誰?

子どもたち、シーン。

「え、誰やろう?わかる?」
「おかあさん?」
「のろいさん?」

そう、ほんとののろいさんがやってきたのです。

今週はここで「つづく」。
みんな「え〜〜〜〜!!」最後まで読んでくれると思っていたのだ。

「これ借りたい!」
「つづき教えて」
「あかん。来週のお楽しみ。」

何人かの男の子が、それでも読みたくてカウンターの中までついてくる。

「お楽しみや。」
そう言って、子どもは手の届かない高い棚のてっぺんに本を置く意地悪な私。あきらめる彼ら。あれ…私、りんごちゃん入っちゃったかしら?
でも、こういうタイプの本は、先を知らないことが大事なのだ。
みんな、来週まで待っててね。

今回は、面白いと選んだものがそのままストレートに子どもたちに届き、会心の一冊になった。ああ、爽快。
いつもこういくとは限らないけど、今日はすっぽりはまった。

今日の本は「りんごちゃんとのろいさん」(角野栄子/作 長崎訓子/絵 ポプラ社)。他に「りんごちゃん」「りんごちゃんとおはな」が出ている。小学生の読み聞かせは、先の「のろいさん」が一番いいと思う。展開のバランスがいい。