若き日のバーニンガム

ジョン・バーニンガム。
「ガンピーさん」のシリーズ(ほるぷ出版)や「ねえ、どれがいい?」(評論社)などは、とてもよく知られていて、軽快なタッチの絵とお話はいつも(いい風が吹いている)感じ。
もともと好きな作家ではあったし、「もうおふろからあがったら シャーリー」(童話館出版)の展開などは、そのセンスに脱帽しもう大好きな絵本なのだが…。
最近、バーニンガムの初期の絵本を続けて読む機会があり、またまた好きになってしまった。



ひとつめは「ボルカ はねなしガチョウのぼうけん」(木島始/訳 ほるぷ出版)。本国では1963年度発行。
みなと同じようにポッテリピョン家の子どもとして生まれたガチョウのボルカなのだが、身体に羽根がなかったのだ。
鳥肌がたったような、ボルカの身体。
お母さんは毛糸で、羽根がわりに灰色の毛の編物を編んでくれる。

それはぴったりで、ボルカは寒さからは解放されるんだけど、所詮毛糸なわけで…水に入れば乾かないし、第一空が飛べるわけじゃない。

塗り重ねた色の美しいこと。いまの絵とは違い、重々しいしそれがまた力強くていい。
ストーリーの細かいところは(たとえば、兄弟たちは名前つきでわざわざ紹介されるが、後の展開で言えば必要ない。また、編物をしてやるくらい子ども思いの親ガチョウなのに、ボルカは見捨てられ気にされない。)「なぜ?」と思うところもあるが、絵に勢いがあるのでついつい先を進めてしまう。
ボルカの不安な気持ちが、だんだん良い人たちと巡り合い楽しく変化していく様子と、そのままの自分を認めてもらうことのうれしさが全体を貫いていて、大きく読ませるのだ。
若いバーニンガムの情熱を感じて、出発点に思える一冊。
木島始さんのあとがきも、よい。


もうひとつは「バラライカねずみのトラブロフ」(瀬田貞二/訳 童話館出版)。
酒場に住んでいるねずみのトラブロフは、ジプシーの演奏するバラライカを聴いて育った。
聴くだけでなく自分でも演奏してみたくてたまらなくなったトラブロフは、旅するジプシーにくっついて教えてもらうことになる…。

こちらもロシアを感じさせる重い色調で、音楽に魅せられた者の生きざまが描かれている。
バラライカの哀愁あふれる音が聴こえてくるような…。
これを読んだ後、思わずyou tubeで「バラライカ」を検索して音を聴いたよ。瀬田貞二さんの格調高い訳が合っている。瀬田さんて、スタイグの「シルベスターとまほうのこいし」もそうなんだけど、さらっと読めない名文なのだ。いまの子どもたちには骨がありすぎるんだけど、読み聞かせには難しいところもあるんだけど、じっくり読むといいんだなあ。

妹がまたトラブロフを追いかけてくるのが、野を超え山越えすごい旅なんだよね。

子どもの頃「太陽の木の枝 ジプシーのむかしばなし」(福音館)という本が好きで、堀内誠一さんの描くジプシーの絵を飽きもせず見ていた。生活場所を一定せずに暮らし歩く、というのに憧れていたなあ。この絵本は、そんなことも思い出させてくれる。


若き才能がほとばしる2冊。
優れた作家にはいろんな時代があり、若き日の作品にはいずれ開花する才能がぎゅっとつまっているような、そんな魅力がある。


やっぱり、こんな本を子どもたちに届けたいと思うんだ、私は。

瀬田貞二をどうやったら、生きた文として伝えられるかと考えるのだ。

きっと、そんなこと考える人自体少ないだろうとも思うこの頃なのだが。