されど幼年童話




おばさんが「ああ忙しい。ねこの手も借りたいわ。」と言ったら、「はいはい」とホントにあらわれたしましまねこ。
「なんでもできます!」

でも、実は役に立つ手伝いはほとんど出来なかったのだ。
手はぬれるのが嫌いなので、洗い物は出来ないし、掃除機もなんだか苦手。しゃけを焼いたら、あんまりおいしそうなのでつい味実が進み、テーブルに出す頃には一人前がほんとに小ちゃくなってしまうし…。

何をするにも一生懸命で、つい失敗してしゅんとなってしまうねこが、とても可愛い。

結局役には立ちきれずに、肩を落として去ってゆくねこ。
おばさんは、ねこのさみしい姿が目に焼き付いて離れず、追いかけていく…。
こうして、しましまねこはおばさんの家の「おてつだいねこ」になったのだった。

おばさんは、おてつだいねこをむやみに働かせようとはしない。
「ただ、見守っていてくれるだけで元気がでてくるの。」と言う。
おばさんの日常の家事を、後ろからにこにこしてじっと見つめるねこ。

おてつだいしようとして失敗ばかりするのだけど、その存在が次第におばさん家族のなかにしっかり根付いていく、その日常が描かれる「おてつだいねこ」シリーズ。

おばさんを元気づけてくれるのが、ただ見守ってくれる視線だったというのが面白いなあと思う。
でも、わかる気がする。
おばさんは家事が嫌なわけではないんだよね。
ただ、毎日のどこかでちょっと共感し後押ししてくれる相手がほしいんだよな。

クリスマス編では、おばさんの友人が経営するケーキ屋の販売を手伝い、初めておてつだいねことしてまっとうに役に立つ。
そして、予定の時間を過ぎても家に帰って来ないねこを待って、家族は晩御飯を前にしながら食べないのだ。
一生懸命仕事してる者を待って、ご飯を食べない。

なんだかそれって、すごく懐かしい光景で、いつのまにか私たち忘れてしまってるんじゃないか。
しびれをきらし食べようとするお兄ちゃんに、「まだだめ!」と言い切るおばさん。私は読んでいて、突然泣きそうになった。

体裁は幼年童話なのだが、きちんと人物と心の動きが描かれているので、深みがあるのだ。
作者は、竹下文子さん。地味だけど、なかなかよいお話が書ける人だと、いつも思っている。

家事が出来る「猫村さん」(ご存じ?)とはまた違ったねこなのだが、この家事の出来ない「おてつだいねこ」は家事をする者の意欲を高めてくれる能力があるのかもしれない。
そこが、計算じゃないところがいいんだよ。きっと。

また、鈴木まもるさんの絵もぴったりだ。