大活躍のきょうだい

1年生の成長するのを待って、そろそろいいだろうと「王さまと九人のきょうだい」を読んだ。
保育所でいつも読んでもらってるとか、親子の毎日の読み聞かせの中でというのなら、この絵本は幼児からでも充分理解出来るが、小学校の集団での場合は1年生は3学期あたりに…というのが私の経験則だ。
長いお話をたっぷり楽しめるようになってから、大事に手渡したいのだ。

子どものほしいおばあさんのもとに仙人があらわれ、黒い丸薬をくれる。一粒飲むと子どもが1人、九つ飲むと9人の子持ちになるというわけだ。
おばあさんは最初一粒飲むが、子どもは生まれてこない。ある日、あるだけいっぺんに飲んだら、オギャーオギャーオギャー!
9人の赤ん坊が生まれた。

貧しい老夫婦は9人も育てていく自信がない。悲しんでいると、また仙人があらわれてそれぞれに名前を授けてくれる。

ここで、私はいつもゆっくり名前を言う。
そして「いまから、この名前がお話のなかで出てくるからね。覚えた?」と言うと、子どもたちはあわてだす。

「もう一回だけ言うよ。ようく聞いてるんやで。ちからもち、はらいっぱい、ぶってくれ、あつがりや、さむがりや…」

子どもらは真剣な顔で指で数えながら、復唱して覚えている。「だいじょうぶ!」「自信ないなあ」とつぶやきながら。

この9人兄弟の活躍の爽快さといったらない。
赤羽末吉の絵がすばらしい。
名前の楽しさとともに、王様の策略ををたやすく破っていく最強の兄弟たちなのだ。
聞いている子どもたちも、「うわあ〜」「すご〜」「え〜」と実際に声がもれる。
すねが谷底までのびてゆく「ながすね」に笑いが止まらない。
毎年この絵本を心ゆくまで楽しむ子どもを目の前にして、質の高い本の底力に感心する。

中国の少数民族の民話なのだが、人々はどういう気持ちでこの物語を伝えていったのだろうか。
長い歴史のなかで圧政もあっただろうし、民衆がつらいことも多々あっただろう。この超人のような9人兄弟の活躍の裏に庶民の願望を見るようで、せつなくなる。
そして、このお話を日本に伝えてくれた君島久子さんに、本当に感謝したくなる。

読み終わったら、「このきょうだい、すっごいなあ。ものすごいわあ。」と1人の子が伝えにきてくれた。
友達同士で「俺は“きってくれ”がいいわ。」「私は“みずくぐり”やな。」と言い合っている子たちの声も聞こえていた。

ああ、よかった。
今年も私の大好きな「王様と九人のきょうだい」を、1年生にちゃんと手渡すことが出来た。
私を忘れてもいい。でも、この子たちが大人になってもこのお話は覚えていてほしいと思う。