愛すべき林さん


この「最後の夏休み 〜はじまりの一滴をめざして〜」(三輪裕子/作 佐藤真紀子/絵 あかね書房)は4年生の単元で浄水場や下水場を学ぶ時にブックトークを頼まれるのだが、よく入れる一冊だ。
多摩川の源流をめざして、キャンプを計画し実行する子どもたちの話。
“はじまりの一滴”という言葉が魅力的で、自分も見てみたい・行ってみたいと思わせる響きがある。

いまおひろめ文庫でのブックトークを考えていてこの本を入れようと思っているのだが、再読したらやっぱり夢中でよみふけってしまった。
引越しする幼なじみの克っちゃんとの最後の思い出に、お別れキャンプを計画した二郎たちだが、いくつもの難問を抱えていた。
ひとつは、二郎の兄弟の中でも最強に手ごわいやんちゃな妹、四樹を連れていかなくてはならなくなったこと。そして、大人の付き添い者として子ども会にかかわっている大学生の林さんを確保していたのいだが、なんと林さんが大学の試験の単位を落としてしまいキャンプに行けないことに…。

台風のような四樹の存在が、物語をダイナミックにさせている。
嫌だと思いながら、翻弄されながらも、妹を思いやる二郎もお兄ちゃんらしくてよい。二郎に共感する子どもも多いのでは。
大学生の林さんも、私自身が大学時代子ども会活動をしていたので、とても近しい人物として読んだ。
もう6回生になってしまい、この単位を落としては卒業できないピンチの林さん!
こういう先輩いたなあ。でもそのおかげて私たち後輩は、いろんな話をしてもらい、先輩の金魚のフンのようにくっついて映画や文学のこと、子ども会で子どもとかかわること、恋愛のことなど聞きまくった。
教授から翌日までにレポートを提出したら単位はあげるとお情けをもらった林さんは、青い顔をしてレポートに取り組む。
二郎たちが自分から「林さん、もう付き添わなくていいよ。」と言わせてしまうほどに形相が変わっていたんだろう。

ここを読むたびになんだか懐かしいような温かい気持ちになり、二郎たちより林さんに感情移入してしまう私なのだ。

まあ、こんなことは文庫のブックトークの趣旨とは違うんだけど。

物語は、子どもたちだけでついにキャンプを実行するという冒険になる。成功するのかどうなのかは、ぜひ読んでみてほしい。
最後のどんでん返しもあり、私の愛すべき林さんもまた登場するので、お見逃しなく。