女たちの物語


駅前の本屋でなんかないかなと探す。
私は、やっぱり本屋で実物を見て買うのが好き。本屋そのものが好きなのかしら。
この「るり姉」(椰月美智子/作 双葉社)は、表紙の絵の感じと帯に神宮輝夫さんが推薦していたので購入した。
神宮さんの名が帯に出るって、珍しい。

とても面白く、言葉の端々にぐっとくるところがあり行間を読むことのできる小説だった。椰月美智子は児童書畑の人のようだ。知らなかったな。
第1章から5章まであり、るり姉をとりまく登場人物5人の名前がそれぞれタイトルになっている。

第1章を読んでいる途中で、あまりこの章の完成度が高いものだから「あとの章って必要あるのかな」
と思ったけれど、なるほどね。
私は特にるり姉の姉(るり姉は妹です)けい子の章がよかった。
中でもけい子のキャラは、なんか泣けてくるのだ。
るり姉ももちろん魅力的なのだが(第一主人公だし)、みんなから重視されない分けい子をかばいたくなるというか。
娘3人をシングルで育てるけい子は、生活することで精いっぱい。職場でのうまくいかなさ、思春期の娘の残酷さを身に感じつつも、とにかく毎日生きていく。
るり姉と比べるとひょうひょうとした感じに描かれているが、案外けい子の方が弱くて生きにくいタイプのようにも思う。だって、身近に奔放なるり姉がいるとこうなるしかないよね。この姉妹は対なのだ、きっと。


イカーの中はゴミだらけ、買い物にも行けず夕飯はマジで卵とごはんだけ!
気がつけばズボンのチャックが開いている…。

この小説はもちろんるり姉が主人公で、けい子の描写からるり姉が浮かび上がる文体になっているのだが、私には妙に心に残る女性だった。

それで、こんな女たちが出てくる話を読んだっけなあと思い出し本棚を探したら…。
「最後の瞬間のすごく大きな変化」(グレイス・ペイリー/作 村上春樹/訳 文春文庫)だった。
多分レイモンド・カーヴァーだと思ってたんだけど違った。
この本に出てくる女性は、みんなけい子みたいだ。
でも、きっともっと大人になったけい子だ。
何が違うかと言うと、ペイリーの描く女性には女友達がいる。
男に恵まれず、子育てに発狂しそうで、生活するのに必死なところは同じだが、連帯する女たちがいて暮らしを、愛を、政治を語りもっと成熟している。この短編集の中の「生きること」が示す世界。

けい子もいつかはそんな女友達が出来たらいいな、いや出来てほしいと思った。

家族でつながるしがらみとうっとうしさと素敵さがこの小説のテーマだけれど、私はけい子にもるり姉にも女友達が現れるといいなと真剣に願う。