おおかみはおおかみ


自分一匹しか、おおかみがいない町。
「どこかにだれかいないかな」

町をさまようおおかみ。

うさぎやぶたやしかは、いっぱいいるのに、おおかみだけがいない。

「け」

おおかみがつぶやく言葉は、これだけ。

強がったり、うそぶいたり、さみしかったりする、この「け」。

しかになれたら、あそこで楽しく遊ぶのに、と心で思う時、だいぶ
弱ってたんだろうな。

違うって、苦しい。
しんどい。

遊園地の木馬だって、墓地のお化けだって、ひとりじゃないじゃないか。
この、お化けにまで思うところが、ものすごく切ない。

お化けの立場から言うとさ、言いたいこといっぱいあると思うんだ。

でも、墓地にひとりぼっちで寝ころぶおおかみの、心の闇の大きさを思うと、生きてるが故のさみしさなんだ。

気球が用意されてて、おおかみはどこかに飛んでってしまうのかな、と思ったら、そうではなかった。

やっぱりおれは、おおかみだもんな
おおかみとして  いきるしかないよ


消えゆく気球に向かって、一言「け」。


ラストは屋上からおおかみが見下ろした、町の家々が立ち並ぶ風景。

そうおもうと なんだか  
ゆかいな  きもちに なってきました


文章はそう書いてあるけれど、少し屈折したような気持も感じる。
しんどさのむこうに少し少しだけ、光が見えたような、ラスト。



いまから37年前に描かれた絵本だけれど、全然古びていない。

わたしもおおかみのように、放浪してみよう。
自分は自分。

そう思えるとよいのだけれど。


人によりかかる前に、自分と対話する時間をもつ強さを。

わたしに、たくましさとユーモアをください。