自分にできること

先日の「ルピナスさん」からひろがったような出来事があった。


家庭訪問期間中なので、5時間が終わると閑散とした校舎。
担任の先生たちもいない。

そんな時間に、ふらりと図書室に寄ってくれた6年生の女の子2人。

「今日帰ったら、母の日にあげる花をつみにいくねん。」
「あそこに咲いてるピンクの花やんな!」
と朗らかに話す2人。

黒板に絵を描いたり、カウンターで備品をいじったりしているので、
「そうや。一冊読んだげよう。」
と、私の本だなから「ルピナスさん」を取りだした。

2人に読み聞かせする、静かな時間。

おじいさんと幼い頃のアリスが約束した場面で、「アリスはどういう人になったら約束果たせるんやろう。」と聞くと、
Sちゃんは「偉くなって、自分の考えてることをもっと伝えていく立場になる。」
「それは、政治家か?」
「まあ、そういうようなもん。」
「そうか。それもあるか。」
Nちゃんは、いつものつつましやかな笑顔を浮かべて「わからんわあ。」と言う。
政治家かあ。そうくるとは思わなかった。
おもしろいな。


話は続く。
私の大好きな場面の次のページは、翌年いたるところに咲き乱れたルピナスの花。
Sちゃんは「わあ、きれい!」と声をあげる。


「ミス・ランフィアスは、おしいさんとしたみっつのやくそくのうち、いちばんむずかしい、三ばんめのやくそくをはたしたのです!」


ラストは、ルピナスさんと世の中をもっと美しくするために、何かすることを約束した小さな女の子のつぶやきで終わる。

「なにをすればいいか、いまはまだわかりませんが、きっといつか、わかる日がくるでしょう。」


「先生はこの本がすごく好きなん。ミス・ランフィアスはルピナスを町いっぱいにしようと考えついて、その通りにしていったんやな。SちゃんもNちゃんも、自分の考えるやり方で美しいものが世の中にふえるように動ける人になれたらいいなあと思うの。
大きくなっても、この絵本のこと心のどこかに覚えておいてね。」

こんなことを言った。
2人は黙って聞いていて、突然Sちゃんが言った。

「私は、ダンスでしあわせにする。」
「え、ダンスやってるんや。」
「うん!」
「いいなあ。そうか。ダンスは人を楽しくさせるよね。」
「Nだって、あるやんな!」
とSちゃんは、Nちゃんを見て代弁した。
「先生、Nはな、フルート習い始めてん。」

恥ずかしそうににこにこ笑ってるNちゃん。

私はすごくうれしくなってきた。

「Nちゃんがフルート吹くやろ。Sちゃんがダンスするやろ。2人で世界回れるやん。」
うわあ、と笑う2人。


ひっそりした図書室でのささやかな3人の会話だったけれど、「ルピナスさん」でこんなやりとりが出来たのが、しみじみとうれしかった。