生きぬけ 伸びてゆけ 少女よ


「海の島 ステフィとネッリの物語」(アニカ・トール/作 菱木晃子/訳 新宿書房
表紙のさわやかな印象にひかれてめくると、「ナチス・ドイツの支配が強まるオーストリアユダヤ人の弾圧から逃れ、生きるためにスウェーデンへやってきた500人の幼い子どもたち。」とある。
サブタイトルの“ステフィとネッリの物語”は、その500人のうちの2人なのだった。
読み終えたいま、再び絵を見て、ようやくわかる。
表紙のステフィは自転車が乗れるようになった後なのだ。彼女にとっての島や海は明るいものに変わりつつあるのだ。だから、こんな色彩でよいのだ。
けれども、そうなるまでの1年間の日々をひたすら懸命に生きたから、その日が訪れたのだ。
そんな日々が一冊の物語になっている。

母国語以外話せない子どもが、ぽんと見知らぬ外国に送り込まれ、とけ込んで生活していかなければならない。
どんなに過酷なことだろう。
両親はウィーンに残ったままで、日を追うごとに戦況は厳しくなっていく。


ステフィは姉なだけに、幼い妹がスウェーデン語が上達していくのを「故郷を忘れないで」と批判的に思ったり、自分の寂しさは誰にも言えなかったりする。
特異な体験をして精いっぱいふんばって健気に生きる一方で、その年代の少女が誰でも経験する仲間外れやけんかなども瑞々しく描かれ、ステフィを応援している自分に気づくのだ。

でもこれは、単なる少女の成長物語ではない。
やはり、戦争という邪悪なものに巻き込まれ、人間が人間を差別し虐殺するというあってはならない歴史の当事者となってしまった子どもたちの記録なのだ。

この物語は、ステフィがいろんな人の手助けによって、中学に進学することが可能になったところで終わる。
そして、あとがきを読むとこれが第1巻で、あと4巻まで続くというではないの!

最後に思わぬ朗報でうれしい。
ステフィがどんな風に成長していくのか。

時代は違うが、「フランバーズ屋敷の人びと」(ペイトン/作 岩波少年文庫)を思い出した。
あの物語も、続きを読む楽しみがあったな。

それで、京都文庫連のおたよりにチラシが入っていて、何気なく見ると作者のアニカ・トールさんがなんと京都で4月に講演会をされるそうでびっくり!
訳者の菱木晃子さんが呼びかけて実現されたそうだ。(ちなみに菱木さんは、「ニルスのふしぎな旅」を近年完訳されて話題になった、いまなにかと児童文学界では旬の方)

出会いって、不思議。
これは、縁があるのかも…なんて思えるほど、タイムリーだった。

まずは、はやく2巻を読もう。