いろんな先生

ああ、明日から学校だ。
夏休み明けほどではないが、いつも休みの後は憂鬱になる私。
校門を入って、子どもたちや先生たちの顔を見れば、とたんにスイッチが入るのもわかっているのだけれど。

気持ちを落ち着かせようと、本棚から「あのころ、先生がいた。」(伊藤比呂美/著 理論社)をもう一度読んだ。
この本は「よりみちパンセ」というシリーズで、いろんな人の生き方や人生などに触れられる。理論社でもこの企画はヒットしているのではないかな。
他には私は「死ぬのは、こわい?」(徳永 進さん。お医者さんです。)「ひとりひとりの味」(平松洋子さん。フードジャーナリスト。)などが面白かった。

これは、詩人で作家の伊藤比呂美が、小・中・高で出会ったいろんな先生たちを振り返った本だ。
多くの先生が登場するが、伊藤さんにとってものすごく好きな先生もいれば、通り過ぎて行った先生もいる。(実際「忘れた先生たち」という章もある)
でも、忘れた先生たちに厳しい目を向けているかと言うと、また見方がやっぱり詩人の目なので、ユニークなのだ。
この本をよむと、きっと自分の出会ったいろんな先生の顔が思い浮かぶと思う。私も、普段忘れていたような先生まで思いだしたよ。
そして、これだけ自由にものを言いながら読後感が爽快なのは、伊藤比呂美という人の人間観の温かさが伝わってくるからなのだ。

さて、いまの私を元気づけてくれたのは「変人のすすめ」という章に出てくるトダ先生。この先生は学校ではなく近所の絵の先生で、伊藤比呂美は彼の教室に通っていた。
ある時、美術館でトダ先生の絵が出品され、見に行く。
大きな大きなキャンパスに草が一面に描かれ、感想がうまく言葉に出てこない。一緒に行った父にも何も言えずに、後日トダ先生に「見に行ったよ。」とささやく。


「そう、ありがとう。」
と先生は言いました。
「好きだった?」
あーそうか、とあたしは思いました。にんじんはきらいだし、卵焼きは好きだった。ゆうちゃんは好きだったけど、みっちゃんは好きじゃなかった。マンガは大好きだった。絵も、それでいいんだな、と。
「好きだった。」とあたしは言いました。先生はとてもうれしそうににっこり笑いました。
(「あのころ、先生がいた」より抜粋)


ああ、この先生いいな。

私にとって子どもとの会話もこのようでありたいな…と思ったら、やっと落ち着いてきたのだった。