この夏 こんな本

気になってた本だったので、図書委員会で行う選書会(子どもが学校図書館に購入する本を選ぶ)のラインナップに入れておいたのだが…。
こんな表紙の本は、いまの子どもたちはまず選ばない。

でも、私はこの本を選び、購入した。
子どもたちが「チュウチュウ通り」(E・ロッダ)や「わんわん探偵団」(杉山亮)や「シノダ!」最新刊(富安陽子)を選ぶように、私は「切り株ものがたり」を選んだ。(ちなみに図書担当の先生はなでしこジャパンの本を「これは外せない」と言っていた)

時は大正時代後期。
医者の跡取り息子である修一は、医者になるべく皆から期待され、また自分もそうなるにだろうと漠然と思っている。
地域の遊び友達も、その親は修一の家に雇われる立場の者が多いが、まだ修一はみそっかすのなので、異年齢のなかではなかなか手厳しく扱われている。子どもの世界に大人の価値観がまだ巣食っていなかった時代の話だ。
こういうのを読むと、むしろほっとする。
子どもたちの容赦ない関係が描かれ、みなたくましく生きている。もういまの子どもたちのなかにその姿を探すのは、残念なことに難しくなってしまった。


物語は、山の衆(やまのし)と呼ばれる山奥で暮らす人たちと食べ物や工芸品などを物々交換する行為をひっそりと続けてきたじいやが、修一にその交換の場所の切り株を教えたところから、ダイナミックに動きだす。


山の衆と村の衆が顔を合わすことは、まずない。
切り株に置いて帰り、何日か後にまたそこに行くと、山の幸や何かがお返しに置いてある。
修一だけでなく、読む側もそこに何ともいえない秘密めいた魅力と、物語が動き出す予感を感じる。


話はどんどん、とんでもなく緊迫した場面に突入する。


これは、愚直にも自分のしたことを真摯に考え、自分で答えを出し、自分で納得して生きた人の物語だ。
読んでいて、中学の時に手作り教材で習った「路傍の石」を思い出した。
話は、もっと続きが読みたいのに、兆しが感じられたところで突然終わる。
そして、あの少女と出会えるのか。
もう、出会ったのか。
違ったのか。

答えはなく、読者にゆだねられる。


こんな物語を、みんなで読んでああだこうだとそれぞれ言い合いたいなあ。
何よりも話したくなる本なのである。

このような骨太な作品世界を書いた今井恭子さんという作者に、興味がわいてきた。
他の作品も読んでみたい。


「切り株ものがたり」(今井恭子/作 吉本宗/絵 福音館書店)。