春に1冊
なんにもしなくても、春というと年度初めで、またかかわっている子どもNPOの会の総会の準備で、忙殺されてしまう季節なのですが…。
今年は、なんと。
引越しすることになり、いま自宅は大変な状態です。
引越し先は、近いので手続きやなんかはそう大変でないのですが、この前「引越しするのがたとえ隣であろうと、大変さは変わらないよ!」と言われ、まさにその通りやなぁ、と。
片づけもののしながら思い出にひたっている暇もなく、たまりにたまった本を断腸の思いで処分しても、次から次へと出てきて「ああ、神さまは私に持てる分だけの本にしなさいと告げているのだ」とかみしめる。
みなさま、私が寄る年波に負けずになんとか乗り切れるように、見守っていて下さいませ。
そんな中で読んだ1冊。
「クリーニングやのももやまです」(蜂飼 耳/作 菊池恭子/絵 理論社)。
いろんな不思議な人?(人でないことも多い)が店を訪れるのだが、ももやまさん自身がその普通でない状況をあたりまえに受け止めているので、とても静かにお話が進行する。
そこが、可笑しい。
ひいおじいさんの代からやってるクリーニングやなのかな。
仕事に必要な特殊な染料や覚書が残されていて、多くは語らないけれどももやまクリーニングにはずっと不思議なお客さんが来ていたんだろうと、想像される。
出来たら、ひいおじいさんやおとうさんなんかの逸話も聞きたい気になるのだけど、それは出てこない。
ついこちらで想いを馳せてしまう。
だって、来るお客さんがおじぞうさんがよだれかけをクリーニングしてとか、無口さんの<よろこび>とか(なんでしょう。それは、読んでみてください)、どれも一風変わっている。
そして、後半にいくたびどんどん走りだす。
蜂飼さんは、詩人だという。
それもあるのかな。
おはなしを説明しきらないで、ぽんっと置いたままのようなところが、詩人らしいな思った。
私が好きなのは、ゆきだるまのセーター。
着てみたいなぁ!
すっごくシュールなのは、トラの毛皮。
毛皮をクリーニングしてくれと言ったお客さん。
そのお客さんは、どんな生き物なんだろう。
菊池さんの絵は、ランプを持った、足のついてる…人間だよね?
でも毛皮着たら、トラなんだ。
しかも、他のトラたちとももやまさんを夕食に誘ってくれるんだけど「今夜は焼き肉します。」って。
絵は、串刺しにしたバーベキュー。
これ、なんの肉なんだろう。
ね、不思議でしょ。
頭がいっぱいで精神的にもしんどかった最近、現実を忘れ世界に入り込んで没頭出来た物語だった。
すごくいい、というのとも違う。
安房直子のような物語性があるのとも、違う。
でも、ちょっと心にひっかかる、フットワークが軽くなる、気分転換出来た本。
それは、きっと作者の自由なやわらかい気持ちが、作品の骨格になっているからだろうな。
いまの私には、それが心地よかったんだ。