さりげないお店

OSAKA演博2010(たこたんフェスタ)の会場が、今年は大阪ビジネスパークから分散して旭区でも上演された。
ビジネスパークの方は、大都会で(大阪城ホール界隈)子どもの演劇を親子で気軽に観る環境ではないように思っていた。どうしても「お出かけ」になってしまうから。
で、初めて訪れた千林大宮
ものすごく普通の町。なんだか、いいな。
好きだな、と思う。
美容院、洋品店(断じてブティックではない)、洋食屋、薬局…普通の暮らしに必要な店が並ぶ先に会場があった。

雨雲があやしいな、いまにも降りそうだな、と思う矢先に傘屋さんの前を通る。
傘の特価品、発見。
晴雨両用の折りたたみ傘、千円。安いわ、結構色も気にいった。
中に入ると、生地の上等な傘が飾ってある。
奥には初老のおじさん。
「これ下さい。」
「お客さん、いい買い物しやはったわ。これ、傘の柄だけでほんまは、二千円はしまっせ。」
「そうなんですか。」
「色がこれでいいんやったら、お買い得でっせ。」

職人風のおじさんに、つい質問してしまう。
「傘の値段の高い安いって、何で決まるんですか?傘の骨ですか?」
特に安い折りたたみ傘などは、すぐ骨がいたんで使えなくなってしまう経験から、私はついそういう聞き方をした。
するとおじさんは、ちょっと笑って、
「傘てね、骨だけとちがいますで。デザインとか、布地とか、やっぱりええもんはちがいます。中国製とちごて国産がええですよ。」

実利面ばかり考えていた自分に赤面したが、そりゃそうだ。
おじさんのやわらかい大阪弁とともに、お店の商品に対して全うに対話した満足感があふれた。
「ありがとう。」
ガラガラとガラス戸を開ける時、自然にお礼の言葉が出た。


公演と公演の合間が中途半端に空いていたので、ゆっくり出来るお店がいいなと思い、入ってみた喫茶店
注文を取りに来たおばちゃんが、私が言う前に「ランチですか?」
「はい。」
その間合いが、なんともよかった。
乱暴なのではなく、相手を察した物言いなのだ。
普通のおばちゃんなのだけど、チェーン店の画一されたしゃべり応対には絶対ないリズム。


ランチはお味噌汁、炊き込みご飯、温泉卵、お漬物、てんぷら。てんぷらにかけるように、かわいいひよこの形をした塩入れがついている。ふつうのおそうざいが、おいしかった。コーヒーがついて900円。

ホットコーヒーを飲みながら、グリーン・ノウの煙突」(ルーシー・M・ボストン 評論社)の続きを読む。300年前の子どもたちと魂の交流をする少年のお話。とても丁寧に描かれたファンタジーなので、私もできるだけじっくり読むようにしている。

商店街探索のために行ったのではないけど、心がほっとした千林大宮だった。

印象に残ったのは、沖縄でも観た「エコア」(仏)。打楽器奏者2名、ダンサー2名が織りなすパフォーマンス。次第に役割を交替し、打楽器奏者が踊り、ダンサーがリズムを刻む。4人がいったい何の専門家なのかわからなくなるほど、技術が高い。そしてエンターテイメント!

「名無しのエリーゼ」(独)。スクリーンで字幕が入るけれど、演技を通じて伝わってくるものがある。
エリーゼ役の女優さんは、決して若くない。でも、軽やかな動きで孫娘になったり、若い娘さんになったり。
鍛えられた身体だから表現できる、メリハリのきいた舞台だった。

いつも思うのだけれど、海外の舞台は役者の感情表現がとても迫ってくる。役柄じゃなくて、まるで本当に存在しているように。
それは、役者自身の人間性が豊かでないとあらわせない。
演じる前に、ちゃんと生きている人間であるかどうか。

勿論、海外でもつまらないものはあるし、日本でも優れたものはある。でも、人を好きになったり、思いがけず傷ついたり、誰かのために役に立ちたいと思ったり、人として生きるなかで当たり前に思う感情が、そこでは再現されていて、だからこそ共感を呼ぶのだと思う。

演博の情報はこちら。
http://www.tact-japan.net/osaka/credit.html